受験と日本史を考える

歴史的思考力を高めよう! 日本史・受験・進路・教育・学校etc...

【講義】考える日本史 〜歴史的思考力とは〜

高校日本史を指導するにあたって、私の持論の要点は、

日本史学習において「思考する」ことはとても大切。
・ただし、事実の正確な把握と体系的な理解の上で思考する。

というものです。

 

 

 

歴史を学ぶ意味については、前回書いた通りです。今回は、「歴史的思考力を鍛えるために」というテーマで書いていきたいと思います。

私は、高校で日本史を指導するにあたり、特に留意していることは、以下の通りです。

①比較
②因果関係
③具体と抽象

これらは、私たちがありとあらゆる分野で、自然と行っている思考の方法だと思います。歴史的思考力を鍛えることにおいても、これらは非常に有用な思考方法です。これらを意識して学んでいくと、ある程度の方々は、歴史という科目の印象がガラリと変わるはずです。

 

 

 

①比較

 比較という手法は、私たちに非常に分かりやすく情報を伝えてくれます。さらに、極めて簡単に実践することができます。

鎌倉幕府室町幕府の違いは?
大日本帝国憲法日本国憲法の違いは?
摂関政治院政の共通点は?

2つのものを並べて比べてみると、相対化されて、これまで見えなかったことが見えてきます。比較をすることで、本質が見えてくることもあるのではないでしょうか。

 

 

②因果関係

 歴史という科目の対象は、過去の人間の営み全てが対象ですから、偶然と必然が複雑に絡まってできています。ただし、多くの場合、その出来事や事件は、原因・理由・背景・結果・影響をもつものです。歴史を勉強する際、因果の関係をしっかり捉えられることは非常に大切なことだと考えています。歴史用語には、原因・理由・背景・結果・影響といった要素が内在しており、これを考えていくことで、歴史を紐解いていくことができます。
 生徒たちを見ていると、どうしても一問一答をしたくなるみたいなんですね。本来歴史というのは、人間の営みですから、原因と結果が一対一対応するようなことはありえません。あらゆることが、原因・理由・背景・結果・影響として考えられます。資料やこれまで得てきた知見を踏まえて、根拠に基づいてこれらのことを考えていくことができれば、歴史的思考力の基礎が間違いなく身についていくでしょう。

 

 

③具体と抽象

 歴史で学ぶ知識は、抽象化しないと現代に生きる私たちにとってはほぼ無意味なものだと思います。知識を抽象化する作業は、歴史の学習において必須だと思っています。
 例えば、

村上天皇の時代に皇朝十二銭の最後となる乾元大宝が鋳造された

ということを学んでも、おそらく私たちにとっては全く無意味な知識です。我々がここから学ぶべきことは、(あくまで一つの例ですが)

貨幣鋳造権というのは、強力な国家権力を基盤とする

ということなんですね。
 抽象的な知識は、普遍性を持つんです。だから我々にとって生きるための知恵やヒントを与えてくれる。こうやって歴史を勉強していくと、歴史を勉強する意味や意義が少しずつ分かっていくのではないでしょうか。
 また、逆もしかりです。今度は、「貨幣鋳造権というのは、強力な国家権力を基盤とする」という抽象的な知識から、具体的な歴史事項を捉えていくんです。実は、日本の中世(鎌倉〜室町時代)には、日本という国家で貨幣は鋳造されていません。中国産の銭を大量に輸入し、それをそのまま使っていたんですね。
これは何を意味しますか?つまり、中世には、日本を統一的、画一的に支配できる強力な権力が存在しなかったということが言えるわけです。他にも、

日明貿易で明銭(中国産の銭)が輸入されたこと
・高利貸業者が中世に登場したこと(借上・土倉・酒屋)
・撰銭が行われたこと
江戸幕府が金貨・銀貨・銭貨を鋳造したこと

こういったことの意味が理解できるようになるんですね。抽象的な知識を用いて、個別具体的な歴史的な事象を見ていくと、全く歴史の見え方が変わってきます。
抽象化と具体化を繰り返すことが、歴史の学びにおいては必要不可欠です。

 

 


以上のことに留意して日本史を学んでいけば、これまでとは全く異なった歴史の見え方、発見があるはずです。そこで得た知見は、必ず現代社会を生きるみなさんに有用なものになると考えています。