受験と日本史を考える

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【備忘録】歴史教育の変遷 『中学校社会科教育・高等学校地理歴史科教育』学術図書出版2020を読んで

角田将士 「中学校社会科・高等学校地理歴史科教育の目標・学力」『中学校社会科教育・高等学校地理歴史科教育』学術図書出版,2020

を読んで。備忘録と感想です。

 

 

 

《明治期~昭和戦中期》

国民意識の形成

背景

幕藩体制から天皇を中心とした近代国家へと変革

・人々に国家への帰属意識や国民としての意識を持たせることが大きな課題

目標

・記憶の「均質化と標準化」

アイデンティティの統合と国民意識の創出

・「日本」という国の具体的イメージ(国土像・歴史像)を持たせることが必要

教科の在り方・学力の捉え方

・事実的な知識を獲得させるという段階

 

国民教化

背景

・大規模な対外戦争

目標

・対外戦争を正当化するための国土観・歴史観の必要性

・国家が求める方向へと、解釈・思想を統制

・共感的理解を求め、感情移入を促す

教科の在り方・学力の捉え方

・語り手が意図する生き方へと子供たちを教化していく機能

 =対外戦争へと国民の精神を動員するための思想統制の手段として機能

・(ある種)国民として望ましい資質・能力を育成する段階へ

 

 

《昭和20年代

市民性育成=経験主義的社会科

背景

・敗戦とGHQによる占領

アメリカの進歩主義的教育の影響

目標

・国家に対して無批判に迎合していくのではなく、民主的で平和的な国家・社会の形成者として求められる資質・能力(=市民性)の育成を主眼に

・子供たちの自主的自律的な思想形成を支援していくための教育が志向

教科の在り方・学力の捉え方

・総合的な問題解決の手段としての位置づけ(=「社会科」の一領域、経験主義社会科)

・歴史はそれ自体として意味を持つのではなく、追究者(研究者)である子供たちが、「現代」の「此処」の社会をよりよく理解するために、「過去(=歴史)」の社会と比較対照し、共通性や相違性を見出そうとする際に、はじめて意味を持つものと考えられた

 

《昭和30年代〜平成》

系統的知識の獲得=系統主義的社会科

背景

サンフランシスコ平和条約の締結による独立の達成

・戦後の教育改革に対して、保守層を中心に、日本の国情に反するものとしての機運が高まる

・経験主義的教育は、基礎学力を低下させるものであるという批判

 (問題解決に必要な範囲でしか知識が獲得されない)

目標

・歴史が持つ専門性や内容の系統性が重視

・より深く、科学的、系統的に理解させる

歴史学が明らかにした成果をその系統に従って順序立てて学習し、それぞれの学問的基礎を理解することが求められた

教科の在り方・学力の捉え方

・歴史の知識はまずもってそれ自体として知らなければならない対象

・あらかじめ定められた知識の効果的な伝達を主眼とする歴史教育

 

《令和〜》

これからの地理・歴史教育

背景

・教育の保守化の動き(2006年の教育基本法改正など)=「国民としての意識や自覚」の強調

目標

・新しい時代に必要とされる資質・能力(=コンピテンシー)の育成が重視

・そのために、「主体的・対話的で深い学び」を視点にした授業改善

・学習観の大きな転換

 あらかじめ定められた知識を効率的に伝達することを主眼とした学習

 →学習の結果として身に付けられる資質・能力の重視

課題

・歴史の分野で扱われる知識は、そもそもコンピテンシー育成の観点から選択されているわけではなく、歴史を物語るために必要とされている知識群から構成されている。

・政治的要請が強い分野については教えるべき内容が固定化されがちとなっている。

・他教科と比べ、コンテンツを重視する性格が強く、授業の在り方を大きく変えることが難しいという課題

対策

・社会的事象の本質を捉え、事象どうしの関連を読み解いていけるよう、彼らの社会に対する見方、考え方=「社会的事象を捉える枠組み」・「社会を解釈し説明するための概念的枠組み」を鍛えていく

 

 

《感想・考えたこと》

歴史は繰り返される(=歴史教育は繰り返される)

結局令和的な新しい学習観・教育観も、昭和20年代の時点で類似の考え方がすでに日本で実践されようとしていた。ALだけが先走ると、系統主義に戻るだけ。大事なことは、バランスである。

 

戦後から現在まで、教育の国家統制が徐々に強まっている

1955年の改訂以降、「試案」から法的拘束力を有するものへと位置づけが強化。つまり、市民性育成を目的とした昭和20年代の経験主義的歴史教育とは異なり、今時の改訂は、ある種、強制的に「資質・能力重視の教育」への転換が行われようとしている。歴史総合や日本史探究においても、学習内容、資質能力に加え、学習の方法がより具体的に示されている点にも留意。

 

だれもわからない

この変化の激しい時代において、今後どのような歴史教育がのぞましいのかということについて、「だれもわからない」。教員一人ひとりの「資質・能力」も問われているように痛感する。